「……そうだったの。蘭子がそんな悪人だったなんて。あたくしの眼力も堕ちたものね」
しみじみ袋小路華子はつぶやいた。
夫金高や助手の東洋有美から聞かされた蘭子の正体には今更ながら愕然とするしかない。突然巻き込まれた盗作騒動によるイメージダウンと世間からのバッシング。夫金高の詐欺被害による破産と豪邸売却……悪夢のような1日の果てにようやく真実にたどりついた華子。だがあまりの人生の変遷ぶりに、反論する気力すら生まれてこない。
「料理研究室のレシピもごっそり盗まれていましたし、今回の盗作騒動を仕組んだのも蘭子さんですよ」
「狙いはおそらく華子が独占していた料理界の女王の座じゃ。わしを騙したのも華子の財力を奪うためじゃろ。悔しいがまさに奴の思い通りの結果になってしまったな」
有美と金高が話し合っていても華子はどこか上の空で頷くばかり。
ピュ~~、冷たい北風が全身を凍えさせる。かっての栄華を極めた豪邸贅沢三昧暮らしから一転して、今袋小路家の面々が暮らすのは橋の下の小さなダンボールハウス。隙間から入る冷気にため息も白くそまる狭い空間に華子、金高、息子清高は身をよせあっていた。
「それにしても寒いわね~。なんとかならないかしら?」
愛猫マドレーヌを抱きしめながら華子がつぶやいた。
「これ使ってみてくださーい。スチール製だから風を防ぐにはいいですよー」
貧乏暮らしの達人である有美は一人元気にあれやこれやと工夫をこらし、華子達が快適になるよう配慮する。そんな彼女が差し出したのは「東洋アルミエコープロダクツ製の『スチールレンジパネル』。丈夫なスチール製のこの商品をコンロ周りでなく防寒グッズとして使えという事らしい。
「ええー、これ~? フレンチカントリー柄って好きじゃないのよね。他にないの?」
こんな時でも自分の趣味を曲げることができぬ華子。ごそごそ、有美は自分の荷物カバンから別の柄をとりだした。
「あら、ラ・フランス柄ね……まあ百%ではないけれど一応満足してあげるわ」
華子は自分の周りをレンジパネルで囲みだした。金高、清高もそれに倣う。確かにこれなら丈夫だし汚れても前の川で洗えるから、ここでの生活にピッタリである。
ほっ、少し元気を取り戻した華子は思う。
――仕事関係や親戚縁者、友人までみんな去ってしまった……落ちぶれた者に世間は冷たいわ。でも有美は変わらない……。どうせ橋の下の貧乏暮らし、家柄や財産が無くても嫁は優しければそれでいいのかも……。
「わぁ~、清高さんって魚釣りが上手♥ 晩御飯は焼き魚ね」
「こんな暮らしも楽しいなぁ~。あの屋敷は堅苦しすぎたよ。このまま有美と仲良く貧乏生活をするのも悪くないねぇ」
アハハハ♥、ウフフフ♥ ダンボールハウスの外から有美と清高の笑う声がする。
若い二人は環境への適応が柔軟である。はっ、華子は我に返った。
――しっかりなさい華子! 華族の誇りを忘れたの? 有美が嫁でもいいなんて情けない。ご先祖様の為にも袋小路の栄光を、料理界の女王の座を取り戻さなくては!
バキッ、体を囲っていたレンジパネルをへし折ると華子は有美を大声で呼びつけた。
「遊んでいる暇はないわ! 蘭子に勝負を挑むわよっ! 彼女よりおいしい公式晩餐会のメニューを完成させて再び世間に返り咲き、盗作者の汚名を晴らしてやるわ!」
華子復活。爛々とその瞳に闘志をたぎらせて、すっくと華子は立ち上がった。
「さすが先生! 私も精一杯お手伝いします! がんばってくださいね」
いつもの調子を取り戻した華子に有美もどこか嬉しそう。しかし華子の口からは意外な一言が飛び出した。
「何いっているのよ。蘭子と戦うのは有美さん、あなたよ」
はたして華子の真意とは?
今はまだ全てが彼女の胸の中である。
く、悔しい……。ご先祖様に合わせる顔がないわ。でもこのままじゃ終わらなくてよ。次回からの新章では大逆転を目指してがんばっちゃうからどうぞ応援よろしくね。ではごきげんよう。
この物語はフィクションであり、 実在する人物、団体、地名、建築物とは一切関係がございません
更新日 2007年12月20日 | トラックバック(0) |
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