「ま、まさか高級食材を購入するために家宝を売るつもりか……?」
金高がうめき声をあげた。袋小路家のご先祖様達が好奇心と戦いながら守ってきた家宝の『帝より賜りし福袋』を手放すという大胆不敵な妻の発言には婿養子の彼も体の震えが止まらない。
「こんな材料じゃどんなにあたくしの腕がすばらしくたっていいお料理なんて作れやしないわ。袋小路家再興のためですもの、ご先祖様だって許してくださるわよ」
ちらりと華子は足元に目をおとした。早咲きのタンポポ、枯れかけのヨモギに小さなフナ……。河原で調達した食材しかないなんて元料理女王のプライドが許さない! 橋の下のダンボールハウス、蝋燭の薄暗い光の中に浮かぶ華子の顔には本気の文字が描かれていた。
「……そこまで言うのならもう反対はせん。しかしこの福袋にそんな価値あるものが入っておるのじゃろうか? 誰も中を見ておらんのじゃろ?」
きっ! 華子が金高をにらむ。
「馬鹿なことを! 帝がお詰めになった福袋よ。国宝級のお宝に間違いなしよ」
金糸銀糸で彩られた絢爛豪華な錦の袋、ずっしりと重いその袋は袋小路家復活への最期の切り札となり得るだろうか。シュルシュル~、華子はおごそかに口の紐を解いた。
「さ、お宝さん出ていらっしゃーい。わくわくするわねぇ…………あら? あらら?」
なぜか呆然と立ち尽くす華子。
「どうしたんじゃ? 早くわしらにもお宝を拝ませてくれ」
じれた金高の催促に華子が袋の口を傾けると、さらさらさら…白い物がこぼれ落ちた。
「……す、砂???」
ヒュールルルル、冷たい北風が部屋の中を吹きぬけていった。
「かあさまはやる気をなくしてふて寝か~。家宝がただの砂だったんじゃ仕方ないな」
チラリと部屋の隅に目をやりながら清高は金高、そして東洋有美にささやいた。 新聞紙にくるまり横たわる華子の肩がゆっくり上下に動いている。頼みの家宝に裏切られ意気消沈した華子はすっかり戦意を喪失していた。
「だが大事に守ってきた家宝がただの砂のはずは無い。なにか秘密があるはずじゃ」
しきりに首をひねる金高。しかし見れども触れどもそれはただの砂。
「それよりも蘭子さんとの勝負はどうしよう? わたしだけじゃ勝てっこない……」
うつむく有美を清高はやさしく励ました。
「有美らしくないぞ。精一杯やればそれでいいよ。袋小路の家がどうなろうとも僕と君の関係は変わらないんだから♥」
「清高さん……♥ そうね、できるかぎりがんばってみるわ! 先生のためにもね♥」
健気なその言葉には金高も瞳をうるませた。
「やっとできたわ! これで勝負は私のものね」
オーブンから取り出したフォアグラのパイの出来栄えに鬼百合蘭子は満足げに微笑んだ。あれからひと月。ようやく完成した料理に濃厚な白トリュフソースをたっぷりかけて早速試食する。じゅわりじゅわり、こってりとした脂が体中にしみわたる。
味よし、色よし、形よし、完璧といえる蘭子の作品である。
「うーん、いい感じ!さすが東洋アルミエコープロダクツの『くりかえし使えるクッキングシート』ね。こんなに使ったのにまったくお料理がくっつかずに崩れない。お値打ちだわ~」
むかうところ敵なしともいえる蘭子であるがやはり気になるのは華子たちの動向。ナプキンで口元を拭うと蘭子は立ち上がった。
「では、貧乏人どものご機嫌伺いに行っちゃおうかしら。華子の哀れな姿が楽しみだわ~~!」
いよいよ次回で最終話。はたしてあたくしと蘭子の闘いの行方は? そして有美と清高の恋の行方は? 次回こうご期待よ! ではごきげんよう。
この物語はフィクションであり、 実在する人物、団体、地名、建築物とは一切関係がございません
更新日 2008年01月30日 | トラックバック(0) |
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