連載「暴君夫人」

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最終章
袋小路家よ、永遠なれ-その1-

「ええーっ、私ですか~? 先生が対決しなきゃ意味ないですよ」

 

 橋の下に東洋有美の叫び声が響きわたった。卑劣な噂で自分を陥れた鬼百合蘭子から料理界の女王の座を奪返するという大勝負。その大事な戦いに袋小路華子は不肖の助手を担ぎ出すと言う。

 

「お馬鹿さんねぇ。こんな服じゃ人前にでられるわけないじゃない。有美さんと違ってあたくしにはイメージってものがあるのよ」

 

 着ているジャージの袖の短さを気にしながら言い放つ華子。それはカエルのような緑色、裾には粋に赤の三本線。背中には『中3A 東洋』。ああ、哀れな華子。朝昼晩と食事の度に衣装を替えて楽しんだ日々は今は昔、まさか有美のお下がりを着る日が来ようとは。

 

――もしも有美が負けてもあたくしは無関係ってことにもできるしね……。

 

 

 落ちぶれても華子は華子。そのプライドの高さは少しもかわらない。

 

 

 

 さて勝負の舞台となる某国女王の公式晩餐会のメニュー作り、それは世界中の料理人憧れであり最大の名誉な仕事である。豊富な金属資源を持つアジアの小国を統治する世界一の資産家アルミン女王。彼女は美食家としても有名で、その太鼓判を押された料理人は料理界で頂点を極めたと評価される。そんな女王が開催する新年の晩餐会で蘭子よりも優れた料理を女王に捧げて、蘭子に、そして世間に自分の実力を再認識させようというのが華子の作戦である。

 

「そんなグルメな女王を満足させるなんて私には無理ですう~。そもそもメニュー作りは蘭子さんに横取りされる前は先生に依頼されていたお仕事じゃないですか~」

 

有美は責任の重さに必死で抵抗する。

 

「おだまり! そんなことは百も承知。あなたは単なる影武者としてあたくしが考えたお料理を女王の前で再現すればいいの。ミスなく作って蘭子を悔しがらせるのよ!」

 

ブルルル……有美の震えは武者震いのせいだけではない。夕刻をむかえ一家が身を寄せる橋の下のダンボールハウスは一層寒さを増す。クシャン、愛猫マドレーヌが顔をしかめた。

 

「そうと決まったら蘭子に勝負を申し込むわよぉ。本番まであと一ヶ月ですもの」

 

 わずかに残った家財道具から和紙と筆を取り出した華子は有美にたっぷり墨をするように命じる。落ちぶれても元華族、何事も古式ゆかしくいくべきだと美しい筆遣いで蘭子に対決を申し込む手紙を書き上げた。

 

「できた……でもどうやって蘭子に渡そうかしら? 郵便で出すのもおマヌケね」

 

頬に手を当ててしばし華子は思案する。

 

「どうせなら弓矢で射ち込んで驚かせてやるわ! 有美さん準備お願いね」

 

さすがに少し疲れたか華子は新聞紙にくるまるとすやすや寝息を立てだした。

 

 

 

 

「できました~!」

 

辺りが暗くなった頃有美は自作の弓矢を披露した。弦は河原の葛、やじりは石ころというそのセンスの悪さに華子は顔をしかめた。

 

「なんだか原始人みたいねぇ。もっとスタイリッシュにできないのぉ?」

 

そんな華子の反応を予期していたのか有美は石に何かを巻きつけた。

ピカリ☆ピカリ☆ 夜空の下で燦然と矢じりが輝きだした。

 

「クッキングホイルを巻いてみました~。いい感じでしょ~」

 

 

 

「さすがは老舗の東洋アルミエコープロダクツの製品だわ。この輝き……この巻きつきの確かさ……。これならどこに射ち込んでも恥ずかしくないわ」

 

 

 

見違えるほど美しくなった矢をうっとり撫でまわしながら華子は満足げに微笑んだ。

 

 

つづく

華子のひとりごと

うふふ、完成した弓矢で蘭子への果たし状を射ち込んでやるわよ。彼女の慌てふためく姿は次回ご覧いただけるわよ。どうぞお楽しみにね。ではごきげんよう。

ご注意

この物語はフィクションであり、 実在する人物、団体、地名、建築物とは一切関係がございません


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更新日 2008年01月10日 | トラックバック(0) |
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